不登校、ひきこもりと自己愛の傷つき
今年拝聴した講演で印象に残ったもののあとふたつ。
石川憲彦氏による「不登校」についての講演。
これは「たけのこの会」という、いわき市の、不登校児に関わる親の会が中心となって催された。
氏の講演は、何より、子どもたちの本来持つ、生き生きとした生命性、それ自体を大切に育てる、
という視点に基づいており、私の臨床感と通底し、まるで私に話しかけてくれているようにさえ感じられ、うれしかった。
「うつ」とは生命が休むことを必要とする状態。
「不安」とは生命が生存の危機に瀕したときに感じる当たり前の感情とし、
自らを守り、うつや不安を乗り越え、生きるためにはどう工夫すればよいかなど、具体的な内容にも話は及んだ。
何より石川氏自身が、還暦を超える年齢を感じさせぬほど生き生きと話されている姿には、敬服した。
私自身がいのちを吹き込まれたような、すばらしい講演でした。
最後は、暮れ間近に郡山で行われた、市橋秀夫氏の講演。
氏も渋谷区で大きな外来クリニックを開院されている、著名な先生。
「現代のうつ」と「自己愛の病理」について。
パーソナリティ障害の概念を下敷きに、詳しく、わかりやすく話してくださった。
主に、学校や社会で理不尽な目に晒されたときに生じるうつについては、
必ずといって自己愛の傷つきがある。
健全な自己愛の成長とは、傷つき体験によって容易に折れてしまわない、
真に自分自身を大切にできる能力を育むことである。
私も20年に渡る臨床のなかで、
パーソナリティ障害の治療については、かなり熱心に取り組んできた。
現在の(特に若年者の)うつの加療には、こうした成長の概念が欠かせない。
数年前に、自己愛性パーソナリティ障害を題材にした映画「凍える鏡」を監修したことを思い出す。
自己愛とは、しっかりと、自分自身を愛することのできる能力です。
それは誰にでもはじめから無条件に与えられるものではなく、他者とのやり取りを通し、ときには傷つけられながらも、こころから安心を得る体験を通じて、育んでゆくものである。
という話も何度かさせていただいた。
言葉にすると簡単ですが、これは大変な道のりです。
ひとつずつ、一歩ずつです。