「夢」

土曜日は、いわきアリオスにて、
金澤翔子さんの席上揮毫を拝見した。
翔子さんは、
ダウン症でありながら、書家として活躍され、
このたびアリオスの檀上では、
「夢」という字を披露してくれた。
    
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小さな身体で、
渾身の、
一字。
    
勢いのある、
凄まじい字だ。
    
ときには25㌔の重さの筆で、
5メートル四方の書さえ、描くという。
   
母親の話によれば、
思春期に父親を亡くすなど、数々の苦労もありながら、
ひたすらに書を書き続けたという。
そんな魂の宿る、
一字なのかもしれない。

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檀上の彼女は、
にこにこと、
笑顔を絶やさず、
「夢は?」とインタビュアーに問われると、
「30歳になるまでに、一人暮らしすること」
と応えていた。
  
最後には
満席の観客を前に、
「まるまるもりもり」
のダンスを披露してくれた。
   
母親によれば
彼女は知能が高くはないから、
うまく書こうとなど思っておらず、
ただ相手をよろこばそうと
書を書いているだけなのだという。
    
ダンスはBGMの調子がわるく、
何度も中断するハプニングがあったが、
そのたび悔しそうに、
何度もやりなおしてくれる彼女の姿に、
会場の手拍子がひとつになった。
    
決してうまく見られようと思っておらず、
踊ること自体が本当に楽しくて踊っているだけという、
そんなダンスは実に楽しそうで、
忘れかけている大切な何かを、
思い出させてくれる。
   
きれいごとをいうつもりはないが、
私は身近にダウン症の子供たちを多くみる環境で育ったこともあり、
彼らの笑顔が大好きである。
勝手な言いぐさであることを承知でいえば、
ときに本当に、
救われるのだ。
   
出口であいさつできる機会に恵まれ、
感謝を伝え、
手を差し伸べると、
にっこりと、
笑顔で握手に応じてくれた。
25㌔の筆を持つというのに、
その掌が、
思いのほか小さなことに、
驚かされた。
 

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