モリアオガエル
うまわるや
森の蛙は
阿武隈の
平伏の沼べ
水楢のかげ
梅雨入り前の日曜日、
草野心平の詩に誘われるように、
いわき市の北西に位置する川内村は平伏沼(へぶすぬま)に出かけた。
山頂に近い
森の奥の路を抜けると、
小さく
静かな
沼に行き当たる。
畔は、
わずか5分で一周できるほどで
青い胴体の糸トンボが飛び交い、
まったくの無音のあいだに
ぐう、ぐうとカエルの声。
目を凝らせてみればミズナラの陰に、
無事に産卵しているではないか。(画面右上)
と足元から
ぽちゃんと飛び込む、
アオガエルの背を垣間見る。
梅雨に入ろうとするこの時期、
卵をいっぱいにおなかを膨らませた一匹のメスガエルに
多くのオスガエルが集まり、樹上で産卵する光景は、
初夏を告げる、平伏沼の、祭祀のようなものかもしれない。
一時期は絶滅寸前に追い込まれたこのアオガエルの繁殖地だが、
ひとびとの努力で、昨年は100以上の卵塊が、
この沼の畔で、確認されたと。
発泡スチロールをしきつめて、
水を増やす努力のたまものだという。
糸トンボが飛び交う、
静かな沼に
心平も聞いたカエルの声がこだまする。(写真は昨年のもの)
林道を下ると、
ところどころに
行くあてのない
除染の袋が痛々しい。
それでも昨年は荒れ地にひなげしが咲いていた場所にも水が引かれ、
田んぼが少しずつ息を吹き返していた。
川内村は
福島第一原子力発電所の西30㌔圏内に位置し、
一時期は全村避難の憂き目にあったが、
2012年1月
他の自治体に先駆けて「帰村宣言」を行った村だ。
静かな村には、
初夏のここちよい風が流れ、
洗濯物がところどころはためいている。
自然と人間。
産卵といえば20代に沖縄に住んでいた頃、
どうしてもサンゴの産卵をみたくて、
毎晩夜10時に環礁に通い詰めていたときのことを思い出す。
温暖化前の沖縄のサンゴは
いたるところに
これでもかというほどに敷き詰められ、
圧倒的な産卵だった。
あれも6月。
幼いころに見た、セミの羽化のあざやかさ。
あれは7月だったか。
圧倒的な自然を前に
言葉をうしない、
しばし涙ぐみそうになる。
感傷の涙ではなく、
感謝の涙、
ともに暮らす、
ありがたみを受け継いでゆける涙にしたい。