地球交響曲

先月、明治神宮の杜で、地球交響曲第四番の上演があると聞き、出かけました。
地球交響曲(ガイアシンフォニー)は、1992年に第一番が上演されて以来、
現在第七番まで完成、今年冬には第八番が完成、上演される予定です。
ガイアシンフォニーは、自然と人間の共生を主題とし、
科学者や、芸術家、写真家、ときにはプロサーファーなど、
出演者の生きざまにスポットを当てることにより、
自然のなかの人間のありかたを問う、
ドキュメンタリーシリーズです。

これまでに、写真家であり珠玉の文章も遺された故星野道夫さんをはじめとして、
日本人の方も数多く出演されておりますが、
今回監督である龍村仁氏、第四番に出演された名嘉睦稔氏とお話できる機会もあり、
明治神宮の杜へ出かけました。
  
監督さんは、巨匠なのかと思い、こちら側がかまえてますと気さくな方で、
人間、あるいは地球の自然治癒力について主に話をすることができました。
名嘉氏とは、これまでも何度か、さまざまな機会にごいっしょさせていただいて、
まさに大自然の生命力そのもののような、作風と、人柄に、いつも圧倒されながら、
熱いパワー、エネルギーをわが身に、頂戴しています。
  
「個々人の生体がひとつの秩序、恒常性を持ったコスモ(小宇宙)であるように、
地球も大きな秩序、恒常性を持った宇宙である。
人あるいは、地球が、本来あるべき自然の姿で生きようとするとき、
その生命力がもたらす治癒力、回復力には、目を瞠るものがあるのだ」
        
人の身体あるいは精神が、本来持つ自然治癒力、回復力については、
昨年私も、「正常を救え」という本に出会い、書評を書く機会に恵まれて以来、
何かにつけ考え、感じ続けていることであり、共感して話をうかがいました。
人の本来備わる、治癒力、「正常なる」回復力を信じることが、何よりも精神科の治療に重要なのです。
  
このところの精神医学は、情報過多と、薬物療法を主とした科学偏重主義に偏り過ぎたきらいがあります。
もちろん科学としての医学が前提、必要条件ではあるのですが、それだけでは十分ではない。
昨今の精神医学が目指している、薬物療法、科学中心の単純な還元主義には、警鐘を鳴らす必要がある。
というのが、「正常を救え」という本の趣旨である。
万人に有効な薬というものは、ありえないからだ。
今はやりの言葉でいえば、エビデンス(科学的根拠)がある、治療法、薬物を選択するわけでありますが、
精神科の対象となる疾患というものは、個人個人において、疾病の詳細は異なり、
当たり前であるが、その人の育った過去、個人的資質、過去から現在における対人関係の様式、
現在のストレス、さらには意識化されていない葛藤が、症状として、現前している場合がほとんどです。
たとえば薬物ひとつにとっても、人それぞれにおいて、
効果や副作用の現れ方が異なるのは当たり前のことであるし、
規則正しい服薬をしたからといって、それだけで改善するという単純な図式ではありません。
なぜ症状が現れたのか、その背景を捉え、ストレスや周辺環境、人間関係、
あるいは自身の考え方や物事の癖のようなものを、少しずつ調整し、改善してゆく必要があります。
自覚をもって、自分が主治医になるつもりで。
そうして自分自身を追い込まず、リラックスできること。
こころに余裕を取り戻すこと。
簡単でない場合もありますが、こうした道程を辿ることで、
その人それぞれが本来持っている、自然治癒力が喚起され、
症状は緩和され、生きて在るよろこびを感じられるようになり、
精神、あるいは心身の病は、快方へと向かうわけです。
   
老若男女、心身の病は、そういう意味では誰にでも起こりうるものです。
人間とは、常にストレスや葛藤に曝されて生きてゆかざるを得ない、ある意味特殊な生き物ですから、
これは避けられないものなのかもしれません。
しかし、病に陥ったときこそが、次なる回復へのスタートでもあるわけです。
    
地球交響曲は、生命が、あるいは地球が、本来の姿を取り戻し、
回復してゆくための道標のような映画です。
そこには美しい映像と音楽に加え、
さまざまなシンクロニシティを含めた、
不思議な世界観が展開されます。
この冬の第八番の公開を楽しみに、
私も日々の臨床を進めてゆきたいと思います。

Comments are closed.