花火
今年ほど花火を精力的に観た年はない。
ことのはじまりはネット応募でまず当たらないと言われている大曲の桟敷席が当たってしまったことだ。
8月1日、小名浜の花火大会は診療もあり行けなかったから、
大曲のウオーミングアップとして、
8月8日、用事ついでに福島市の花火大会にでかけた。
駅から阿武隈川を歩く夕暮れの川べりはここちよく
浴衣を着た兄弟が抜きつかれつ
胸躍らせるように会場へと向かっていた。
大曲は競技大会とだけあって
花火師どうしの火花を感じる熾烈さだった。
昼花火という珍しい煙幕のあと、
競技は、尺玉の芯入り割りもの、自由玉、そしてスターマインの部で争われる。
創作花火であるスターマインはもちろんだが、
尺玉の美しさと、
腹に、ずん、とひびく迫力がたまらない。
2年前の長岡と、学生のとき以来何度か行った土浦と
これで3大花火競技大会は一応制したことになる。
花火は一瞬の勝負であるから
面白い。
一時期は本気で花火師のライセンスを取ろうと思ったほどだ。
ベタだがどうしたって人の世と重なり合い、
歓喜と哀感が入り混じる。
若い女性たちが酔っぱらって、
「これ100点」「いや120点」「う~ん、200点」
どんどん点数がつりあがっていってしまうのが聞いていて楽しかった。
こうなると土浦をもう一度しっかりと観てみたくなる。
人ごみは苦手だがそうも言っていられない。
またしても用事にかこつけ、縁ある土浦の土地にも数年ぶりに出かけた。
土浦も大曲と同じく熾烈な競技花火である。
いつも人と行くのでちゃんと観ていなかったが、
どれも大曲に負けずハイレベルだ。
強烈な閃光とともに、
いまこの瞬間だけは日々の悩みや困難からも解放される。
関西方面から来たらしいおばちゃん連中に
煎餅やらチーズ鱈のようなものやら、次々とつまみを分けてもらいながら、話も弾む。
そして中盤、
地元主催の大仕掛けの大スターマインは名物のようで、
これでもか、これでもか、これでもか、
というほどに花火は広角に夜空のすべてを埋め尽くし、
桜川が真っ赤に染まった。
コトバが出ない。
おばちゃんたちも黙った。
動けない。
そして最後はたまたま出先の熱海海岸で
偶然その日に当たった10月の花火大会。
年に何度か行われる海岸の花火は、
熱海港のすり鉢状の地形を生かし、
シンプルかつ鮮やかだった。
すでに肌寒い季節ではあるが、
潮風もわるくない。
若いカップルもいるにはいるが、土地柄年配の方が多い気がした。
老夫婦が、
身を寄せ合って空を見上げる。
花火が終わっても動かないから、
少し心配になったくらいだ。
静けさを取り戻した海を前に
ようやく彫像が動くみたいに
二人はゆっくりと立上ると、
路地に消えた。